2016/11/16
Georg von Rauch, Russland: Staatliche Einheit und nationale Vielfalt, Munich, 1953.
Georg von Rauch, Russland: Staatliche Einheit und nationale Vielfalt, Munich, 1953.
本書は国家中枢の中央集権的志向と諸民族の分権的志向との間の緊張関係を軸にした、ロシア史の通史である。ロシアの多民族性に着目しているという点で、これはAndreas Kappeler, Rußland als Vielvölkerreichの先駆であり、ロシアの連邦制的改革案について取り上げている点で、Dimitri von Mohrenschildt, Toward a United States of Russiaの先駆である。帝国論、ナショナリズム論の隆盛によりKappelerの研究ですら既に古くなった今では、類書の少ない後者の視点で読むことが有用だろう。
本書の優れた点は、何にもまして、キエフ・ルーシからソヴィエト連邦に至るロシア史上の全ての国家体制とその改革案に現れた連邦主義的原理を網羅的に取り上げようという企図にある。近代の帝国改革案はしばしば古来の国制を理想化とともに援用することで正当化されたから、正当化の根拠とされた国制の実情とその改革案をその場で比較対照できるのは、本書の通史的特徴の長所だと言える。また、アメリカ建国以後の連邦構想のみを扱ったvon Mohrenschildtに対し、著者はアメリカ建国以前に模索されたロシアの複合国家への改編にも視線を向けることで、複合国家と連邦国家との共通性を提示している。ただし、共通性にもかかわらず存在するであろう両者の原理的な相違について考察が十分なされているわけではなく、複合国家的改編と連邦国家的改編の構想は並列的に扱われている。
ロシア史上の連邦主義的国家構想の網羅的考察という以上のような企図にもかかわらず、若干の漏れを指摘することはできる。例えば、本書で主に取り上げられているのは中央及び諸民族による国家構想であり、ロシア人の地域主義者(シベリアのポターニンなど)によるそれは重視されていない。著者は改編後の国家の地域単位の措定が、歴史的特権によるべきか、民族によるべきかの区別は行っているが、それ以外に、19世紀にはそれが経済的一体性によるべきだという議論が登場しており、その議論が例えばシベリア地域主義者の自治の主張の根拠とされたのだった。また、当時の研究水準でやむを得ない点であろうが、中央アジアやカフカースについての記述は薄い。他方、バルト・ドイツ人の回想録などにより、ラトヴィア人の運動についてはとりわけ詳しく論じられている。
筆者の専門であるウクライナについては、ペレヤスラフ条約をロシア国制史上の画期とする記述と、1917年キエフでの諸民族大会の連邦制決議を民族の法的主体としての承認としてやはり国制史上の画期とする箇所に頷いた。オーストリア=マルクス主義の影響がブンドとラトヴィア・ナショナリストに対して以外具体的に論じられていないのは物足りなかった。
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