2021/05/14

ウィーン生活7:大学生活

  こちらの暦では3月1日から夏学期が始まり、自分が正式に博士課程の学生になったのもその日のことである。2か月半が経ち勝手も分かってきたので、個人が確実に特定されない範囲で大学での研究について書いていく。

・博士課程

 日本と同じく、博士号取得のための最小年数は三年であるため、卒業できるのは最短で2024年の2月である。ただ、これも日本と同じく、(少なくとも自分の分野では)三年で博論を書き終えるのは難しいというのが共通認識であるらしい。自分の場合は日本で数年既に博士課程を経験しているわけだが、その点は顧慮されない。奨学金が三年分しか決まっていないなどの事情があり、心の中では三年で書き終えることを諦めてはいないが、現時点では指導教員を納得させる根拠もない。

 放任主義的な日本と比べると、ここでは学生が博論を提出するまでの段階を前もって具体的に組織することが奨励されている印象を受ける。初年度のどこかで博論の執筆計画について聴衆の前で発表するFOePなるイベントがあり、それを経て初めて正式に指導教員と契約が結ばれる。単位取得のため授業やゼミに出席するのはFOePを成功裡に終えたあとのようだ。大学には学部横断的な博士候補生支援事務局があり、相談窓口を設けるとともに様々なワークショップを主催している。

 指導教員とは1―2か月に一度面談をして研究状況について報告することになっている。先日二度目の面談があり、4月はずっとそのための準備にあて、現時点で考えている章構成とその内容、参考文献リストについての資料を作った。ブログの更新が滞ったのはだいたいこの作業のせいである。

・研究チーム

 現在、自分は正規の博士候補生であると同時に、指導教員がリーダーを務める研究チームの一員にもなっている。研究チームは拠点をウィーン大においてEU版の科研費のようなもので運営されている。自分は無給であるが、チームの成員として、大学の建物内にパソコンなどが備えられた作業場所を与えられている(もっとも、つい先日までロックダウンであったのでほとんど使っていないのだが)。今学期は一切授業を取っていないので、数週間に一度行われるこのチームのミーティングが生活の基準になっている。そこではチームメンバーの誰かが書いた原稿について討論し、その後個人の研究状況について互いに報告することが通例である。

 今まで自分が出席した三度のミーティングはすべてzoomであり、メンバーのほとんどとはまだ直接会ったことがない。人によって考えがあるとは思うが、アカデミアでは皆対等であり批判に遠慮はいらないというのが原則だとしても、そのような議論の場は人間同士としての信頼関係を前提として成り立つのではとも思う。また、そもそも国際的な研究チームに加わるのは初めてであり、欧州アカデミアのコミュニケーション規範についても何も知らない。そういうわけで、毎回の議論はやや居心地が悪く、今は直接顔を合わせて他のメンバーに人間として認知される機会が来るのを待っている。

・図書館

 こちらに来てまず驚いたのは、図書館が契約しているオンラインデータベースの充実ぶりである。日本でも主要な雑誌にはほとんどアクセスできたが、こちらでは雑誌だけでなく、Eブックもかなりの数が簡単に手に入る。他方、紙媒体の図書については、自分の研究分野についてもそれなりに充実した専門図書館があるものの、ここですべてが手に入るという感じではない。特に、ロシア語文献はおそらく東京のほうが多かった。また、昔の新聞などの一次史料もほとんど所蔵していないようである。

 ロックダウンのせいで、作業場所としての図書館についてはまだ余り書くことがない。椅子が固く高さも調整できない中央図書館を除いてまた一度も用いていない。ただ、所属する研究所の専門図書館は一度司書に案内してもらった。おそらく、最も作業に使いやすいのは大学図書館ではなく、オーストリア国立図書館であろう。

 最後に、大学の東アジア学科の専門図書館は、ウィーンで日本語書籍が手に入る数少ない場所の一つである。図書館の性格上、自分が好んで読む翻訳文学が手に入らないのが惜しいが、日本文学であれば読む本に困らない程度の量は所蔵している。

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