2015/06/19
[論文メモ] Zayarnyuk, Andriy. “Mapping Identities: The Popular Base of Galician Russophilism in the 1890s,” in Austrian History Yearbook 41, 2010
Zayarnyuk, Andriy. “Mapping Identities: The Popular Base of Galician Russophilism in the 1890s,” in Austrian History Yearbook 41, 2010
1892-93年のガリツィアでルソフィルが行った正書法改定への反対キャンペーンについて。90年代初頭にガリツィアはポーランド保守派とルテニア・ポピュリストの妥協による「新時代」に入り、その象徴が発音に即した正書法の導入であった。しかし、ポピュリストと対立するルソフィルは正書法改定を「ルーシの伝統に反し、ルテニア人のポーランド化をもたらすもの」として批判、民衆に対して従来の正書法の維持を求める請願書への署名を呼び掛けた。これはルソフィル勢力による初めての大衆動員であったが、多くの署名にもかかわらず最終的に正書法は変更された。
著者はナショナリズム論における構築主義の流行の弊害として、近年のルテニア人ナショナリズムについての研究が諸勢力の大衆動員やその効果についての分析を欠いていることを指摘する。そこで本論ではルソフィルの初めての大衆動員であった請願書キャンペーンについて詳細に分析され、伝統維持のアピールによりそれなりに大衆の支持を得られたものの、請願書への署名数や支持層の割合に地域的偏差があったことが示されている。著者によれば、この偏差は1848年革命時のガリツィア分割のための請願書においてもみられ、それはやがてガリツィア全域に民衆支持層のネットワークをつくり出すポピュリスト勢力に政治的敗北を喫する要因の一つとなった。
ネイション・ビルディングにおける言語問題の重要性の一例としても読めるし、ガリツィア北部一帯がルソフィルの支持基盤だったというのは新たな発見であろうが、一点、ポピュリストをウクライナ・ナショナリストと同一視しているのがやや気になった。どうしてもポピュリスト勝利決定論の臭いがするというか・・・。
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